今回は現在東京のアーティゾン美術館で開催中の「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ」について、展覧会の見どころや押さえておきたい作品についてご紹介していきたいと思います。
Contents
アーティゾン美術館とは?
今回の展示について紹介する前に、まずアーティゾン美術館について簡単に紹介したいと思います。
アーティゾン美術館は元ブリヂストン美術館。2019年の改修工事とともに館名も変更しました。
「アートの地平」を感じられる美術館
アーティゾンとはアート(芸術)とホライゾン(地平)を掛け合わせた造語で、アートの地平を感じてほしいという意味が込められているそうです。
「ARTIZON」(アーティゾン)は、「ART」(アート)と「HORIZON」(ホライゾン:地平)を組み合わせた造語で、時代を切り拓くアートの地平を多くの方に感じ取っていただきたい、という意志が込められています。新しい美術館のコンセプトは「創造の体感」。古代美術、印象派、日本の近世美術、日本近代洋画、20世紀美術、そして現代美術まで視野を広げます。
https://www.artizon.museum/about-museum/
印象派から近代絵画までを数多く収蔵
アーティゾン美術館では、主にブリヂストンの創業者である石橋正二郎さんの(石橋財団)コレクションを展示しています。
石橋財団では特に印象派や日本の近代洋画を多数収蔵しているため、アーティゾン美術館では印象派をはじめとした近代絵画を多く見ることができます。
今回の展示では特に、新しくした作品 95点を一挙に公開しているので必見です!
ABSTRACTIONとは「抽象」のこと
アブストラクションとは直訳で「抽象」という意味です。
abstiaction
(名) 抽象、一般化、抽象化、普遍化
https://www.ei-navi.jp/dictionary/content/abstraction/
この展覧会では、近代美術史で最も重要なムーブメントのひとつである抽象絵画について、その発生源を印象派としつつ、現代に至るまでの流れを一気に見ることができます。
抽象絵画の流れをまとめて見れる!
本展は新収蔵作品を含めた約250点もの作品を、アーティゾン美術館の全展示室を使って展示されています。
後期印象派から現代に至るまでのさまざまな時代・国の抽象絵画をまとめて鑑賞できる機会はあまりないため、「抽象絵画の流れを感じながら鑑賞できる」というのは本展示の見どころの一つです!
有名な画家の制作年の違いに注目!
本展では、有名な画家の、よく知られる作品とは違う雰囲気の作品や有名になる前の作品を意図的に並べて展示されているため、その画家の画風の「揺れ」を見ることができます。
例えば、日本でフォービズムをいち早く取り入れたといわれる萬鉄五郎は、1917年にキュビズムの画風も取り入れた作品も制作しています。
一概に「抽象絵画を描く」と言っても、どのくらい、またどうやって抽象的に描くのかという問いは、表現者にとっての大きな課題です。
日本近代美術の先駆者として知られる萬鉄五郎も、当時最先端のフォービズムやキュビズムの画風を取り込みつつ、独自の画風を模索する様子が見て取れます。
特に有名な画家については、制作年をチェックしながらその画家の画風の「揺れ」を見ていくと面白い発見があるかもしれませんね。
セクションごとの見どころ
1抽象芸術の源泉
セクション1では現代美術史で最も影響を与えた人物の1人であり、「近代絵画の父」とも呼ばれるセザンヌを抽象絵画のはじまりとして紹介し、同時期の画家たちの作品を並べて展示されています。
見たままを描く絵画のあたり前を壊したセザンヌに注目
後期印象派に分類されるセザンヌは、近代絵画の父と呼ばれ、のちのキュビズムの画家たちに大きな影響を与えたとされています。
その所以は、見たままではなく、見たものを頭の中で再構成して絵を描いたことにあります
セザンヌは実際の目で見た景色を実際に見えた時のように写しとる表現を探るなかで、モチーフを単純化し、複数の視点を一度に描くという表現に辿り着きました。
例えばコップと果物が置いてある机を実際に見た時、我々は一つの視点からでなく様々な方向からそれらを見ることになります。
絵画ではこれまで一つの視点からしかモチーフを描くことがありませんでしたが、それでは実際にあるものを正確に表現できないとセザンヌは考えたのです。
セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」
【外部リンク】サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール 1904-06年頃 石橋財団アーティゾン美術館蔵
セザンヌの晩年の作品。本展では抽象絵画の起源としてまず最初に展示されています。
サント=ヴィクトワール山はセザンヌが好んで何度も描いたモチーフです。
最も有名なサント=ヴィクトワール山は1887年のもので、そちらと比べると描いてあるモチーフも少なく抽象的で、描きたいものがよりブラッシュアップされているように見えます。
これらの作品からは古典的で安定した構図に先進的な印象派的な色彩表現という、セザンヌの特徴がよく見て取れます。
2フォーヴィスムとキュビスム
セクション2では1905年頃に同時期に起こった重要なムーブメントであるフォービズとキュビズムについて、重要な分岐点として紹介しています。
まず、このセクションを楽しむためにはフォービズムとキュビズムがどのようなムーブメントだったのかを知る必要があります。
フォービズムは「感じた色」で描く色の革命
フォービズムとは、直訳で「野獣派」。何が「野獣」かというと、「色」のことを指しています。奇抜な色使いに驚いた批評家が「まるで野獣のようだ」と評したことからこの名前がつきました。
フォービズムは主に後期印象派のピカソに影響を受け、「見えるままの色」ではなく「心で感じる色」を描き、当時の絵画界を驚かせました。
フォービズムは1905~6年に最も盛り上がった芸術運動のため、1905~6年の頃に制作された作品に注目して比べてみると面白い発見があるかもしれません。
キュビズムは「複数視点」で描く形の革命
キュビズムはセクション1でも取り上げられていた後期印象派に分類されるセザンヌに影響を受け、複数の視点からみた対象を一枚の絵の中に収めようとした芸術運動でした。
キュビズムの名前は「キューブ(立方体)」から来ており、キュビズムの画家たちが描く作品がキューブのようだったため、このように呼ばれるようになりました。
マティス「コリウール」
【外部リンク】アンリ・マティス コリウール 1905 石橋財団アーティゾン美術館
赤のハーモニーでよく知られるフォービズムの画家・アンリ・マティスの作品。マティスでよく知られる作品といえば「赤のハーモニー」ですが、それよりパステル的な色使いであることが本作品の興味深い点です。
同時期のフォービズムの画家、アンドレ・ドランも同じような色使いをしていることから、お互いに影響しあったことがよくわかります。
赤のハーモニーは1908年制作。最初緑に塗られていたとされていますが、このような緑色が使用されていたのでしょうか?
アンドレ・ドラン「女の頭部」新収蔵作品
【外部リンク】女の頭部 アンドレ・ドラン 1905年頃 石橋財団アーティゾン美術館蔵【新収蔵作品】
3抽象絵画の覚醒
セクション3では、重要な分岐点であるフォービズムとキュビズムを経て、「抽象絵画」とよばれるムーブメントが生まれた経緯を、さまざまなムーブメントとともに紹介しています。
これらはそれぞれ発生した時期も場所も異なり、一口に抽象絵画といっても非常に多様であることが見どころです。
モチーフがない完全なる抽象絵画へ
このセクションでは様々なムーブメントが紹介されていますが、これまでのキュビズムと抽象絵画が大きく異なる点は「モチーフがない」ということ。
非常に多様ながらどれも抽象という似たゴールに向かっているムーブメントたち。「どのようにモチーフのない抽象絵画を描いたのか」という点を比べてみると面白い発見があるかもしれません。
ポスター起用作品!クプカ「赤のエチュード」新収蔵作品
【外部リンク】フランティセック・クプカ 赤い背景のエチュード 1919頃 石橋財団アーティゾン美術館【新収蔵作品】
クプカはオルフィスムに分類されるフランスの抽象絵画家です。
オルフィスムはキュビズムに影響を受けフランスで起こった抽象的芸術運動ですが、日本にはまだあまり馴染みがありません。
抽象絵画というとドイツのカンディンスキーやオランダのモンドリアンが日本では有名ですが、「同時期にフランスでも抽象絵画が生まれた」ということを伝えるため、クプカをポスターに起用したのかもしれませんね。
4日本における抽象絵画の萌芽と展開
セクション4では日本の抽象絵画の発生と展開を紹介しています。
明治から大正にかけて、一気に西洋近代美術が日本に流れ込んだ、そんな当時の最先端芸術に敏感に反応し、独自の作風として落とし込んでいった画家たちを紹介しています。
日本の抽象絵画の発生はヨーロッパと時期がほとんど同じということが興味深い点でもあります。
恩地孝四郎抒情『明るい時』
【外部リンク】恩地孝四郎 抒情『明るい時』 1915年 東京国立近代美術館蔵
恩地孝四郎は日本における最初の抽象絵画を描いたとされます。
興味深いのはこの作品が版画であるということ。この時期の抽象絵画で版画作品は世界的にもあまり見ません。
曲線と赤と白だけで表現された絵でありながら、タイトルのとおり暖かさや優しさを感じられる作品となっています。
5熱い抽象と叙情的抽象
セクション5では戦後のフランスの抽象芸術「アンフォルメル(不定形)」に焦点を当てて紹介されています。
アンフォルメルとは「描く」行為に重きを置いたムーブメント
アンフォルメルとは「形がない」という意味。描くという行為自体に重きをおき、無意味に絵の具を垂らしたり、散らしたりすることで表現を試みた芸術運動です。
似たようなムーブメントとしてアメリカのアクション・ペインティングが有名ですが、アンフォルメルもまるで書道のような表現や、マチエールを追求した作品が多くあり、ダイナミックさや激しさを感じたいセクションです。
日本人としては日本画家である堂本印象の甥・堂本尚郎が有名です。
尚郎は父の影響を受け日本画を描いていましたが洋画へ転向。1955年にパリへ渡りアンフォルメルに参加し、国際的に有名な画家となりました。
6トランス・アトランティック-ピエール・マティスとその周辺
セクション6では2度の世界大戦を逃れるように拠点を移したことで、現代美術の中心がヨーロッパからアメリカへと移り変わった時期の作品を紹介しています。
ヨーロッパから持ち込まれた芸術がアメリカの風土や文化と融合し新たな流れを生み出過程をみることができるかもしれません。
美術商のピエールマティスを中心に
ピエール・マティスとは、フォービズムの画家であるアンリ・マティスの息子で美術商をしながら前衛芸術家たちを支援した人物です。
このセクションでは主にピエール・マティスによってアメリカに紹介された作品と、彼らより先にアメリカで芸術運動を起こし成功したデュシャンの作品が展示されています。
7抽象表現主義
セクション7では、セクション6によりヨーロッパから持ち込まれた芸術によって、アメリカで新たに花開いた「抽象表現主義」について紹介しています。
大きくて強くて自由な抽象表現主義
抽象表現主義の特徴は「大きい」「強い」「自由」新しい時代の始まりとアメリカの雰囲気を感じます。
8〜10戦後日本の抽象絵画の展開
セクション8から10では、戦後日本の抽象絵画を一気に見ることができます。
再評価されつつある「具体美術協会」
なかでもセクション9の具体美術協会については、近年国際的に再評価の流れが起こっている日本の芸術運動で、戦後日本の風土や社会環境を反映した重要なムーブメントとして紹介されています。
11巨匠のその後
セクション11では戦後パリのアンフォルメルを代表するアーティストであり、石橋財団コレクションと強い結びつきを持つ3名の作家、アンス・アルトゥング、ピエール・スーラージュ、ザオ・ウーキーを取り上げ、彼らの発展と成果を紹介しているそうです。
12現代の作家たち
セクション12では、抽象絵画の新しい流れを思わせる現代画家たち7人を紹介しています。
彼らは現代作家らしく非常に多様な表現ながらも、それぞれ独特の抽象性が見出せる画家です。しかし抽象的でありながらも、目標は抽象絵画ではない点が新たな切り口だとして展示されています。
展覧会情報
会期|2023年6月3日(土) – 8月20日(日)
会場|アーティゾン美術館 6・5・4階展示室
開館時間|10:00 – 18:00[8月11日を除く金曜日は10:00 – 20:00]入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜日[7月17日は開館]、7月18日
お問い合わせ|050-5541-8600 (ハローダイヤル)
■日時指定予約制
コメント
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