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「奇想の系譜」で紹介された江戸時代の絵師
奇想の絵師とは、美術史家・辻惟雄さんの著書「奇想の系譜」で紹介された、奇想天外な絵を描いた江戸時代の絵師6人のことを言います。
奇想の絵師たちは、明治時代以降忘れ去られていた絵師ばかりで、この本をきっかけに数人の絵師が再注目されました。
「奇想の系譜」の概要
発行年 1970年
著 者 辻惟雄(つじ のぶお)
内 容 長年忘れられていた、江戸時代の絵師を紹介している
魅 力 個性的な絵師を前衛絵師として再定義
紹介されている絵師 岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳
奇想の系譜は雑誌「美術手帖」の連載(1968年7~12月)を編集して出版したもの。
発売当初から爆発的に売れ続け、50年前に出された本でありながら、いまだに改編されながら売れ続けている有名な本です。
個性的な絵師を「前衛絵師」として再定義
この本で紹介されている絵師は異端として扱われ、明治時代以降忘れ去られていた絵師ばかりでした。
辻惟雄さんは、そんな個性的な絵師を最先端の「前衛」と定義し直し、評価しました。
衝撃的な絵師たちの作品を、この本をきっかけに知った人も多く、人々は江戸時代の絵画のバリエーションの多さ・面白さに改めて気付かされました。
ちなみに、「新版 奇想の系譜」では、原文の良さを生かしつつ、出版当時から変化した事実や見解の変化を、各章に「あとがき」として加筆されています。
奇想の絵師6人
岩佐又兵衛〜生々しすぎる人体表現〜
【外部リンク】山中常盤物語絵巻 岩佐又兵衛 重要文化財 MOA美術館
牛若丸(源義経)の母(常盤御前)が山中で盗賊に殺された悲劇と復讐の物語。
バランスを崩しそうなほどうねる体の表現は力強くエネルギッシュで、打ち合いにより亡くなった人の様子を又兵衛は生々しく凄惨に描き、人々を驚愕させました。
近年では、洛中洛外図屏風(舟木本)も又兵衛作であると言われているなど、実は穏やかな作品も数多く描いたことも知られています。
狩野山雪〜幾何学的で不自然〜
山雪は徳川の時代で京都に残り、豊臣家に仕えたことで不遇な扱いを受けた「京狩野」の絵師でした。
普通、木々は枠から飛び出してのびのびと描かれますが、山雪のこの梅の幹は画面に窮屈そうに収まって描かれています。
窮屈そうな幹とは裏腹に、よく見ると幹から生えた小さな枝は自由自在に伸びて綺麗な花を咲かせており、衰退と再生を表しているなどとも言われています。
幾何学的に描かれた木は黄金比などを駆使して描かれていると言われており、山雪の構成力の高さを物語っていると評されます。
伊藤若冲〜鮮やか過ぎる色彩〜
【外部リンク】動植綵絵 伊藤若冲 各141.8~142.9×79.0~79.8 相国寺 国宝
伊藤若冲も、この本をきっかけに再注目された絵師のひとり。
呉服屋の息子として生まれた若冲は当時貴重で高価だった鮮やかな絵の具をふんだんに使用して絵を描きました。
当時からすると「奇抜すぎる」色使いで、江戸の人々を驚かしました。
中でも若冲が40代の時に制作した30幅の掛け軸「動植綵絵」では、彼が最も好んで描いた鶏をはじめとしたモチーフを、緻密で鮮やかに描いています。
曽我蕭白〜不気味な人間を描く〜
【外部リンク】郡仙図 曽我蕭白 国宝
蕭白は仙人や中国の故事など伝統的な画題を、グロテスクに、または不気味に描きました。
大きく目を見開いて視点が定まっていないような目は不気味ながら、見る人を惹きつけます。
また、鮮やかな極彩色の色彩表現も特徴的です。
若冲と同じく家柄が裕福だったため、高価な絵の具も惜しみなく使えたと考えられます。
長沢芦雪〜自由奔放で大胆〜
虎図襖 長沢芦雪 1786年 無量寺 重要文化財引用元
芦雪は江戸時代後期に大ブレイクした円山応挙の弟子。
若い頃から才能を見出され数多くいる応挙の弟子たちの中でも特に優れた弟子と言われていました。
写実的な応挙の絵柄とは違い自由奔放で大胆な絵を描きました。
画面に溢れんばかりに描かれた虎は虎というよりじゃれ合う猫のよう。自由奔放な芦雪の性格が絵からも伝わってきます。
歌川国芳〜大画面に大きなモチーフ〜
江戸時代末期に筋骨隆々の武者絵でブレイクした浮世絵師の国芳。
通常の浮世絵のサイズの紙を横に3枚並べた大きな画面に、大きく描かれたガシャドクロは迫力満点です。
「奇想の絵師」ではこのような迫力満点の作品が取り上げられていますが、風刺画やユーモアある動物の絵も有名です
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